α-2 ウィリン領-2

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「やあ、おはよう。調子はどう?」  厩舎の扉を開け、ロックが姿を見せた。俺は干し草の山に突っ込んでいた顔を向ける。すると、ロックがおかしそうに笑いだした。 「顔中に干し草がついちゃってるよ」 「む」  頭を振るうと、バサバサと細かい干し草が落ちていった。  さて。俺は寝そべっていた状態から立ち上がる。昨日一日ドタバタしたが、おおむね自分の置かれた状況はわかったつもりだ。とあれば、さっさと行動するに限る。せっかくできた友達と別れるのは寂しいが、わがままばかりも言っていられない。 「ロック。世話になった。俺もう行こうと思うんだ」 「え?」  ロックが間の抜けた声を上げる。 「いつまでもここにいるわけにいかないもの」 「…行くって言ったってどこにさ」 「さあ」  そのあたりは無計画だ。ただ、道自体は舗装されている。つまりは、道をたどればいつかは別の町にたどり着くということになるはずだ。魔物の姿だから驚かれるだろうけど、会話ができることが大きい。なんとかなるだろう。 「さあ、って。目的もアテもなしに旅するのはきついよ?」  その言葉には途方もない実感がにじんでいた。 「あれ、ロックって実は旅慣れしてるって感じ?」 「少なくともユウ君よりはね」  完全にバカにした雰囲気で答えるロック。だが何というか、俺は妙な感覚をその表情から感じ取った。  これは、寂しさ、だろうか。 「……生憎だけど俺の旅の目的ははっきりしてんのさ」 「ああ、元人間とかそんな話?」 「そうそれ」  俺はロックの表情について深く考えるのはよしておこうと思った。なんとなく、まだ触れていいものではない気がする。それこそ向こうから打ち明けてくれるまで、黙っていた方がいい。  そんな考えを秘めたまま、俺は軽く返答する。俺の旅の目的は3つ。  1つ、俺がこの姿になってしまった原因を探る。  2つ、俺が人間に戻る手立てを探し、実行する。  3つ、俺の家に無事に帰る。 「以上!」  胸を張っている俺とは対照的に、ため息が一つ。 「目的はわかった。アテの方は?」 「とりあえず道があるからそれを辿る」  ロックは口元を覆うと、またなにやらもごもごとつぶやいた。それから、彼も干し草を払うと立ち上がる。 「さすがに心配過ぎるし、最寄りの町までついて行くよ。それくらいはいいよね?」
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