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α-1 人から一角馬《ユニコーン》へ
俺を包んだ光があまりに眩しく感じ始め、身を揺する。それでも光は俺を離さなくて、煩わしくて、大きく頭を振った。同時に、自分の身体まで大きく揺すられた感覚に襲われて、俺は目を開いた。
「おっ、とと!」
しっかりと地面を踏みしめ、転倒は避けられた。まばたきを繰り返して、視界を慣らしていく。どこか違和感を覚えつつも、照りつける太陽に意識が向く。いつの間にか中天に達しようとしているそれが、先程から感じていた煩わしいほどの光量の正体だろう。青空にはまばらに白い雲が散りばめられていた。
相当疲れている様だ。よもや夢遊病を発症するなど。ため息をついて、顔を擦ろうとする。
……しかし、腕が上がらない。いや、上がる感触はあるが、身体ごと持ち上がる様な重力があった。おそるおそる視線を下げると、風にそよぐ野草がある。そして、それを掻き分ける様にして、
蹄が見えた。
一度頭を上げる。
「いやいや」
再び足元を見る。蹄がある。しっかりと地面を踏みしめている感覚もある。
「いやいやいやいやいや」
再度顔を上げる。それによって始めの違和感の正体にも気づいてしまう。
視界が広い。自分のお尻が若干視界に入るくらいだ。周りの木々も草花も、奥行きがあって立体的に見えているからこそ、すぐには気がつけなかったのだろう。自分の知っている草食動物は平面でしか見ることができないはずだと、頭の中で何かが叫ぶが、事実こうなのだからどうしようもない。
俺はおそるおそる自身の尻尾ではないかと思ったところを動かしてみる。毛の房が視界に現れた。もう疑いようがない。俺は牛か馬かそんなものに成り果てている。尻尾の形状から見ておそらくは馬だ。だがそんな事実は気休めにもならない。
「イヤァァァァァァアア!?何コレェェェエエエェェェ!?」
俺はパニックを起こして走り出す。何だこれは。本当に何なんだこれは。夢なら早く覚めてほしい。しかし、冷静な部分でしっかりと、馬のような甲高いいななきと、蹄が地面を蹴る音を聞いていた。
怖い。怖い。怖い。怖い。どうして。どうして。どうして。頭の中を、意味のない言葉がぐるぐると回り続ける。
いななきを残して、草原を白い疾風が駆け抜けていく。
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