α-1 人から一角馬《ユニコーン》へ

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 ほのかな快感を味わいつつ、少年の反応を伺う。先ほどよりも随分と疑うような雰囲気は薄れた印象だ。そのまま黙っていると、少年が剣を鞘に収めた。 「わかった。話全部を信じられたわけじゃないけれど、とりあえず魔物くんのことは信用するよ」  俺は心の中でガッツポーズをする。無論この身体ではできないのだが、思ったより歓喜が大きかったのか、自分の鼻がブルン、と鳴るのが耳に入った。  若干気恥ずかしくなり、咳払いしてから口を開く。 「魔物じゃない。俺の名前は笹島裕っていうんだ」 「サ、サシ……?」  疑問符がいくつも飛んでいる。言葉の隅々から困惑が聞き取れた。短い方が発音しやすいし誤認も少ないだろうと思い、名前のみを告げる。 「あ、えーと、裕です。裕」 「ユウ……ユウだね。わかった」  腕を組んで頷く少年。当面の危機は去った、と気づかれないように小さくため息をついた。 「じゃあ魔……ユウくんはなんだってこんなところに?」 「それが、目を覚ましたらいきなりこんな姿になってたから、パニックを起こして走り回っちゃって、どこからどう来たのかさっぱり」 「えー!何してるのさ!」 「め、面目無い」  何故叱られねばならないのか。余計に悲しくなってきた。少年が再び口元に手を当てて、考え込む。 ちょっとした仕返しのつもりで、こちらからも質問を投げる。 「君こそ、どうしてこんな場所まで?」 「ボク?この辺りに自生してる毒草を取りに来たんだ」 「――え?毒草ぅ!?」  俺の驚いた声を聞いて、少年は呆気にとられた表情を浮かべたが、やがて納得したように「ああ」と笑った。 「干した後、煎じて薬にするんだよ。まだ人の手で栽培できない種類なんだ」 「あ、ああ。なるほど」 (文字通り、毒を転じて薬となすってところか。そういうものは俺の知ってるやつと大差ないのかな?漢方とか……違ったっけ?)  薬に転用するということを納得はしつつも、新たな疑問は尽きる気配を見せなかった。 「その、毒草を、一人で?」 「ボクが一番腕が立つからね。魔法でも剣術でも、この森の魔物はまず撃退できる。ただ……」  言いながら、少年が視線を動かし、木の根によるとしゃがみこむ。俺が少年へと歩み寄ると、少し渋い表情をした少年がこちらを見上げた。 「あ、ごめんね。ちょうど見つけちゃったもので。……ここの魔物はボクくらいなら簡単に撃退出来るはずなんだ」
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