第三十三段階 恋しすぎて

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貴子のマンションには、何度もあがった経験がある。酒に酔った貴子を運ぶのは最近では、ほとんど尾田の役割りだった。 ーーー早く着きすぎたか。まだ帰ってねぇってどういう事だよ。 マンションの前で貴子へ電話をかけようとした時に車のライトが近づいてきた。掌をかざしたものの、ライトのあまりのまぶしさに目を細くする尾田。 マンション前に乗り付けられた車から、貴子が姿を現した。 ーーー藤谷? 尾田は、車に走り寄った。 「藤谷、おせーぞ、あれ?」車の窓を覗き込んだ尾田は眉間に皺を寄せた。 尾田は、車から降りてくる貴子の腕を掴んだ。 「なんで、部長の車に乗ってるんだよ。それになんでびしょ濡れなんだよ。お前」 貴子を上から下まで見て驚きの声を上げた。 「いろいろあったの。私も」 「ったく、何してんだよ。お前は。早く家に入って風呂入れ」尾田は、白井へ挨拶もせず貴子の背中を押して歩き始めた。 「おい、挨拶もなしか」運転席から降りてくる白井。 「すみません。ありがとうございました」貴子が頭を下げる。 「……行くぞ」険しい顔して尾田が貴子をせかす。 尾田と貴子がマンションへ入って行くまで、白井は2人をじっと見ていた。 「くそっ、今までエロ部長と一緒にいたんかよ」 憎々しいと言うような表情で白井の方を振り返り見ていた尾田。 エレベーターホールに来ると尾田は、ため息をついて貴子の着ているコートの襟をつまんだ。 「そんな濡れてんのを今まで着てたのかよ」
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