第三十三段階 恋しすぎて

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「仕方ないよ。雨に降られたんだもん」 貴子の部屋は、入ると爽やかな香りがする。清潔に片付けられた部屋は、貴子のきちんとした性格を物語っているようだった。 「飲み物、買ってきた? うちビールしか無いからさ」 「おう、たんと買って来たぞ。食い物もな」 尾田がコンビニのビニール袋を上げて見せた。苦笑いしながらスリッパを尾田に出してくれる貴子。 「そんなのいいから、お前は先に風呂へ入れ。俺は適当にはじめとくから」 「うん。じゃあ、適当にグラスとか使っていいから」 「ああ。やっとくから気にすんな」 尾田は買って来た紙袋に包まれた竜田揚げをレンジに放り込む。手を洗ってから、エアコンのリモコンを探した。 キョロキョロしていると着替えを持って風呂へ向かおうとしていた貴子がリビングへ顔を出した。 「何探してんの? リモコン?」 「そう。どこに隠してんだよ。出しとけよ。そう言うもんは」 「別に隠してないわよ。あるじゃん。テーブルの上に。めん玉どこにつけてんのよ」 貴子がテーブルに置いてあったリモコンを尾田へ渡した。 「はあ? これ、なんだよ。テレビのだろ? エアコンのだよ」 「そんなの壁にかけてあるじゃん。物には居場所があんのよ。それぞれ」 「なんだそりゃ。わかったから、入って来い」 貴子の肩へ手をやり、くるっと後ろを向かせる尾田。貴子の背中を押して風呂の方へ向かわせた。
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