10秒後の近未来

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璃久に彼女ができたら、ちょっとだけ冷やかして その後、笑顔でおめでとうと言うつもりだった。 なのに、あまりにも突然過ぎて 心の準備ができず、つい逃げ出してしまった。 水道の蛇口を勢いよく捻ると、澄んだ水が 思い切り跳ね返り、制服のブラウスに 歪んだ丸い染みを作る。 あたしは、両手で水を掬い上げると ばしゃりと顔に掛けた。 瞬時に、上気した頬の熱と零れた涙を 流し去ってくれた。 タオルハンカチで、水滴を拭い顔を上げる。 直ぐ側のテニスコートから聞こえてくる 女子部員の掛け声と短い夏を謳歌する 蝉の鳴き声。 ありふれた日常。 ……大丈夫。 きっと巧くやれる。 あたしは、太腿を叩くと気合いを入れた。 笑顔で『おめでとう』って言おう。 「音羽!」 いきなり呼び掛けられた声に 思わず肩が震えたけれど……大丈夫。 あたし達は"幼馴染"だから。 満面の笑みを浮かべて振り返る。 「おめでとう、璃久。  学園一の美少女をゲットするなんてさ。  あんたも隅に置けないね」 うん、これでいい。 ……これでいいんだ……
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