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璃久に彼女ができたら、ちょっとだけ冷やかして
その後、笑顔でおめでとうと言うつもりだった。
なのに、あまりにも突然過ぎて
心の準備ができず、つい逃げ出してしまった。
水道の蛇口を勢いよく捻ると、澄んだ水が
思い切り跳ね返り、制服のブラウスに
歪んだ丸い染みを作る。
あたしは、両手で水を掬い上げると
ばしゃりと顔に掛けた。
瞬時に、上気した頬の熱と零れた涙を
流し去ってくれた。
タオルハンカチで、水滴を拭い顔を上げる。
直ぐ側のテニスコートから聞こえてくる
女子部員の掛け声と短い夏を謳歌する
蝉の鳴き声。
ありふれた日常。
……大丈夫。
きっと巧くやれる。
あたしは、太腿を叩くと気合いを入れた。
笑顔で『おめでとう』って言おう。
「音羽!」
いきなり呼び掛けられた声に
思わず肩が震えたけれど……大丈夫。
あたし達は"幼馴染"だから。
満面の笑みを浮かべて振り返る。
「おめでとう、璃久。
学園一の美少女をゲットするなんてさ。
あんたも隅に置けないね」
うん、これでいい。
……これでいいんだ……
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