9人が本棚に入れています
本棚に追加
顔を上げた璃久は、驚いたように目を見開いた。
「おぃ、なんで泣いてんだよ!」
少しだけ拗ねたような顔をし
「…ったく、泣きたいのは俺の方だってぇの
―――勇気振り絞って告ったのに、あっさり
フラれたんだからさ」
あたしはあわてて首を振った。
「違うの…
嬉しいよ。ものすごく嬉しい!
だって、あたしもずっと璃久の事好きだったから」
「え?マジで?」
「でも…でもね。あたしもうすぐ死んじゃうの」
あとからあとから、涙が溢れてくる。
嫌だ、死にたくない。
「ちょ…何言ってんだよ、音羽。
死ぬって…訳分かんないんだけど」
「あたし、約束を破ったから災いがふ…」
また映像が浮かんだ。
白い球が勢いよく飛んできて、あたしの後頭部に直撃する。
膝から崩れ落ちる身体を支える璃久の腕。
これがあたしの最期なんだ―――――
そう思った瞬間、後頭部に衝撃と鈍い痛みを感じた。
意識が遠のく。
…バイバイ、璃久。大好きだよ…
「きゃー、すいません。大丈夫ですかぁ?」
後ろから響く、甲高い声。
あれ?
あたしは璃久の腕の中で、目を開けた。
振り返るとスコートをはいた女子が立っていた。
「ごめんなさ~い。ボール飛ばしちゃって」
璃久は足元に落ちていた軟式のテニスボールを拾い上げると
その子に放り返した。
「すいませんでした」
何度も頭を下げながら、コートへと戻って行く。
「ねぇ…璃久?」
「ん?」
「あたし、生きてる…よね?」
多少ずきずきする後頭部を撫でながら尋ねると
璃久はぷっと吹き出した。
「大袈裟だな。あれ位で死ぬ奴いないだろ」
そっか…
あたし、生きてるんだ!
最初のコメントを投稿しよう!