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あたし、祭音羽には
【10秒後の近未来がみえる】という、どうにも
使い道のない特殊能力が備わっていた。
初めて、この力の存在に気付いたのは小6の時。
下校中、角を曲がればもうすぐそこに
自宅の門柱が見えるという場所で、突然不思議な
光景が目の前に浮かんだ。
学ランを着た中学生の跨がる自転車が飛び出してきて
あたしにぶつかる。
倒れた自転車と尻餅をつくあたし。
まるでショートフィルムを観るように映像が流れ
一瞬で消えた。
『えっ?
何、今の?』
立ち止まり、辺りを見回すもいつもと変わらぬ街並み。
首を傾げながら一歩踏み出した瞬間。
耳をつんざくような、甲高いブレーキの音と共に
「わあっ!」という叫び声が響いた。
坊主頭の中学生のままチャリが勢い良く
あたしの方に突っ込んでくる。
突然の出来事に避けきれず、そのまま正面衝突。
派手な音を立てながら自転車が倒れ、弾き飛ばされたあたしは
思い切り尻餅をつく。
「痛たたっ……」
お尻を擦りながら、顔を上げたあたしは愕然とした。
さっき過った映像と全く同じシチュエーション。
「ごめん。大丈夫?」
心配そうに尋ねる中学生を、丸無視し
あわてて立ち上がると一目散に自宅へと向かう。
一体何が起きたの!?
あたしの心臓はバクバク脈打っていた。
「じぃちゃん!じぃちゃん、いる?」
大声で叫びながら玄関脇をすり抜け、家の裏手にある
剣道場へと駆け込む。
師範代を務める祖父は、作務衣姿で素振りをしていた。
あたしの姿を認めると、木刀を振り下ろす手を止め
満面の笑みを浮かべる。
「おぅ、音羽。お帰り」
「ねぇ、じぃちゃん、聞いてよ」
血相を変えて飛び込んだあたしに怪訝な視線を向けた。
「どうした?そんなにあわてて」
「…変なモノが見えた!あたし、おかしくなっちゃったのかな」
今にも泣きだしそうなあたしの様子に、事態を察したらしく
木刀を片付けると、床の上にきちんと正座した。
その顔は真剣そのもの。
普段は冗談ばかり言ってあたしを笑わせる、面白い”じぃちゃん”だが
真面目な話をする時には、いつもこうして姿勢を正す。
だから、あたしもそれに倣い、祖父の正面に居住まいを正して座った。
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