10秒後の近未来

5/16
前へ
/16ページ
次へ
「残念だがな、音羽。  この力は一度覚醒したら一生付き合っていかにゃならん。  だから、そのための決まり事を今からお前に伝えよう」 「決まり事?」 祖父は、作務衣の襟をきっちり合わせ直すと背筋をしゃんと伸ばした。 「まず、一里眼について話しておこうか。  10秒後が見えるのは、力を持つ者に危険やピンチが  迫った時だけだ。  その時の場面が、突然目の前に映像として浮かび上がる」 「知りたい未来の出来事が、見られるんじゃないの?」 あたしの驚きの声に、祖父は困ったような顔をする。 「うむ…それが、そうはいかんのだよ。  危険度にも差があってな、正直儂にもいつ見えるのか  まったく予想がつかん…」 「なにそれ!とことん使えない力」 「まぁ、そう言うな…」 祖父は苦笑し、ふぅと息を吐いた。 「で、ここからが本題だ。  この一里眼と付き合っていくためには  守らにゃならん決まり事がある」 人差し指を立て 「一つ目。  一里眼の事をその力を持たぬ者に話してはならん。  つまり、儂と音羽だけの『秘密』ちゅうことだな」 続けて、中指を立てる。 「二つ目。これがもっとも大事な事なので  よっく肝に銘じておくように」 その神妙な面持ちに、あたしは思わずごくりと唾を呑んだ。 「視えた未来を変える事は厳禁だ」 「―――――…?  え…っと、どういうこと?」 祖父の額の皺が濃くなった。 「まんまの意味だ。例えどんなに危険な未来の図が視えても  絶対にそれを回避してはならん」 この言葉は、今日一番あたしを驚かせた。 「じゃあ、空から物が降ってきても、通り魔にナイフを  振り上げられても、渡ろうと思った橋が崩れても…  それでも避けちゃ駄目なの?」 早口に尋ねると、祖父は小難しい顔をして頷く。 「…ま、そういう事になるな」 「そんなの無理に決まってんじゃん!  死ぬって判ってて、何もしないなんて無理無理無理!  絶っ対に無理だって!!」  「音羽!」 あたしの喚き声を、祖父の鋭い一声が制する。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加