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日頃の穏やかな祖父からは
思いも及ばないほどの迫力に口を噤む。
祖父は表情を緩めると
「無理かも知れんが、これだけは絶対に守らにゃならん
決まり事だ。もし約束を違えば―――――」
「…違えば?」
緊張気味に聞き返す。
「大きな災いが降りかかる」
「え?
災いってなに?」
祖父は眉を下げた。
「…具体的に何が起こるのは判らんが…
昔からそう言われておる」
あたしは少々呆れた。
一里眼とやらは、何から何まで曖昧な力らしい。
真剣に聞くのが急に馬鹿らしくなり、正座を崩した。
「もういいよ。分かったから、じぃちゃん。
適当に躱すから大丈夫だって」
投げ出した膝を摩りながら、そう言うと
「馬っ鹿モン!!」
雷のような大声があたしの頭上に落とされた。
後にも先にも祖父に怒鳴られたのはその一度きりだ。
あまりの驚きに半べそになる。
「儂は真面目に言っとるんだぞ。
祭家の先祖の誰が一里眼の覚醒者だったかは分らんが
家系図を辿ると、何世代か毎に早世や不審死した者がおる。
それが何を意味するか、音羽にも分かるだろ?」
あたしの心臓が早鐘を打ち始めた。
「それって…
じゃぁ、もしも今日あたしが一里眼で視た未来を変えてたら…
突っ込んでくる自転車を避けてたら、もっと恐ろしい事に
なってたの?」
祖父は静かに頷いた。
「そうだな…
避けた弾みで転がって、偶々通りかかったトラックに
跳ね飛ばされていたかもしれんな。あるいは―――――」
「もう、いいよ!」
あたしは両耳を手で塞いだ。
「分かった!ホントに分かったから。守るよ、決まり事は
必ず守ります!!!」
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