天使の梯子

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天使の梯子

僕は頭が悪いんです。 昔はできました、勉強。 でも、今は何も考えられない。 誰かの言葉は僕には伝わらない。 ある人に言われました。お前はどんくさいし、要領も悪い。 それは子どものころから変わらないのだろう。 何度も言うようですが、勉強だけは人並み以上にできました。 中学校や高校の勉強なんて、教科書を丸覚えすればいいだけのことなんです。 それ以上の応用力や、社会での生き方などはこの年になっても身につかないままです。 そのあたりのことについて、人は僕を頭の悪い奴だと考えるのです。 自分でもうんざりしてしまいます。 僕が空を見上げたときのことです。 天使の梯子が見えました。 それは、とても美しいものでした。 そして目の前には、天使か、女神か。 そう、あなたが立っていたのです。 そしてあなたは、僕の目の前まで来て僕をぎゅっと抱きしめました。 「大丈夫だから、ね」 顔は伏せられており、どんな表情をしていたのかわかりませんでしたが、とてもやさしい声色でした。 まるで、ずっと以前に別れた母のように。 今でも僕はその時のことを思い出しますし、彼女の温かさがまだここに残っているような気がします。 彼女はいったい何者だったのだろうか。 でも、頭の悪い僕に勇気をくれたのは確かです。 そうして僕は、ときどき彼女を思い出し、日常生活に身を投じるのです。
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