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とりあえず起き上がり、自分の体の状態を確かめてみる。
「うわ……えぐいな」
なかなか直視できない。黒い着物がざっくり切れ、そこに吸い込まれるように刺さった凶器は、内側の肉のすきまに布地を少しめり込ませていた。いくらか乾きはじめた血のごわごわした感触が気持ち悪い。
手足は無傷で、横たわっていた場所は砂浜だった。
「抜けるかな」
包丁の柄に手をかけ、力をこめてみたがびくともしない。
しょうがないので、そのままなるべく気にしないことにして、私は周囲を見渡した。海とは反対側に松林があり、その間に細い道が通っているようだ。
「いってみるか」
私は死んだ実感のないまま、ふらふらと歩き出した。
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