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「八千代」
男の声がして、きょろきょろ見まわすと、近くの家の庭先にこちらを見ている若い男がいた。
日に焼けたたくましい体つきの精悍な男だった。きりりと後頭部で一つに束ねた黒髪もつややかで好ましい。
「いい男!」
思わず口にする。
「また現れたのか」
男は眉間にしわをよせ、手に持ったつるはしを肩に担ぎあげた。
「私を知ってるの?」
「ああ、よく知ってる」
淡々と言いながら、男は頭上で軽々とつるはしをまわしはじめる。
「おまえは海神様の嫁として海に捧げられたのに、それを忘れて何度も戻ってくる化け物だ」
聞いたとたん、脳裏に黒い花嫁衣裳を着せられた記憶が浮かんだ。
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