おわりとはじまり

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 黒無垢に身を包んだ私は黒布で目隠しをされ、小舟に乗せられて沖へ連れて行かれた。手足をきつく縛られ、大きな石をくくりつけられ、波の奥深くへ沈められていく。  海の底では全身に光るうろこをまとった海神が待ちかまえていて、あらがうすべもなく捕らえられた私は、ざらざらと、ぬめぬめと、昼夜なくせめさいなまれて、人の身から海蛇へと姿を変えさせられたのだ。 「八千代、もういい加減にしろ。人としてのおまえは死んだのだ」  嵐と不漁が続きさえしなければ私の夫となったはずの男が、冷たく言い放つ。  ぐぐっと頭を下げて見れば、黒い着物のすそから出ているのは真っ白な大蛇の尾だった。悲しみのあまり、私はほろほろと涙をこぼした。 「なぜ私だけが」  網元の娘であるというだけで、漁村に暮らす人々の犠牲にならねばならなかったのか。 「海神様とむつまじく暮らせ」  言葉とともにつるはしが、ぶんと重くうなりをあげて飛んでくる。  あやういところで避け、海へ向かって逃げ出した。  いつのまにか黒い着物は消え、人の形であった手も消え、完全に蛇身となった私は、ちょうど押し寄せてきた大波の下へと急いでもぐりこんだ。
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