おわりとはじまり

7/8

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「戻ったな」  七色に光るうろこをきらめかせ、海神は私を出迎えに浮上してきた。上半身は人に似た形なのに、腰から下は竜とも蛇とも魚ともいえるような不思議な形をしている。 「またこのような傷を」  胸に刺さった刃物を、海神はいともたやすく抜いて、先が割れた舌でちろちろと傷口を舐めた。たちまち傷はふさがり、なめらかな白いうろこに覆われた肌となる。  気がつけば私の半身も人の形となっていて、海神にすがりついて泣いていた。 「浜に行かねば、村人はおぬしに感謝し続けるであろうに。その姿をみせるたび、感謝は恐怖に変わる。おぬしを差し出して厄災をまぬがれたことなど、都合よく忘れ去られてしまうぞ」  わかっている。  でも私は、いまだに承服しかねているのだ。  恋しくて会いたくて浜に戻るのに、あの男は私を見ると問答無用で攻撃してくる。深く傷つけられるたびに記憶を失くし、再び追い払われそうになって思い出す。もう何度くり返したかわからない。  おまえを好いているとささやいたのは嘘だったのか。  私の代わりに妹の婿におさまって満足しているのか。  私の身に矢を放ち、刃物を突き立て、重たげなつるはしまで投げてよこしたあの男。  その後ろには、おびえた目で私を見る妹と老いた父母の姿もあった。妹の胸にはふくふくとした頬の赤子がしっかり抱かれていた。  なぜ、そんな目で見る……?  こうなったのは私の意志ではないのに。  村のためと私を説き伏せ、ともに涙を流したのは誰なのか。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加