おわりとはじまり

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「止めはせぬ」  ほろほろと真珠の涙をこぼす私に、海神はそっと尾を巻きつけ、優しい声でささやいた。 「気の済むまで好きにさせてやろう。おぬしの人の身ははかなく死に果てたが、我が妻として生まれ変わったその身は死なぬゆえ」  もう死ぬことはない。  それが幸福なのかどうか、私にはわからなかった。 「幾久しく、ともにあろう」  唇を開こうとしてもふるえてうまくいかず、ハイと答えることはできなかった。  海神はさびしげに微笑み、私の手をひいて海底(うなぞこ)(しとね)へといざなっていく。  いつか、私の方から手を伸ばす日がくるとしたら、これを幸せと思えるだろうか。  あの男が老いさらばえて、刃物をくりだす力をなくしたら。  寿命が尽きて、浜で姿を見かけることもなくなったら。  そのときこそ、私は真の妻として海神とともにありたいと願っている。  すべて忘れて。 (終)
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