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「ささ、どうぞくつろいでおくれやす。今夕げ用意しまっさかい」
女将はしばらく台所に消えた。
琉菜はふっと息をついた。
ご主人も女将さんもいい人そうだなぁ。
でも、なんか閑散としてる…確かさっき1ヶ月ぶりって…
「お待たせしはりました」
女将は琉菜の前に食事を置いた。
どうやらそうとうはりきったらしく、繁盛していないであろうこの旅籠にしては豪華な食事だった。
「ありがとうございます。いただきます」
琉菜は朝御飯も食べずに家を飛び出してこちらに来ていたので、全部平らげるのにそう時間はかからなかった。
食事のあとは、女将が琉菜を2階の部屋に案内した。
「この部屋ならちょうどええどすわ。下の通りも見える景色のいい部屋さかい。好きに使ったってや」
「ありがとうございます」
琉菜はぺこっとお辞儀をした。
「うれしおすなぁ。うちは貧乏旅籠やさかい。近頃は壬生浪の巡察くらいしか来へんようになってしまったんどす」
琉菜は自分の耳を疑った。
「あ、あの女将さん、今、壬生浪って?」
「へぇ、そうどすけど」
琉菜は目を輝かせて女将の顔を見つめた。
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