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無言のまま、ページを何枚かめくると、どれもこれも情事の後の気だるさを漂わせていて、これ以上見れないと判断した加奈子が、大きな音を立てて盛大にスケッチブックを閉じた。パン、と硬い音が響き、紙の繊維が舞い上がる。
美沙と加奈子が、なんとも言えない気まずさを抱えながら見つめ合っていると、ルイが口を開く。
「私らがそんなの描けるわけなかよな」
後輩二人は口を横一文字に結んだまま頷く。エロティックな情景をモティーフにできるほど、まだ成熟しきっていない。そもそもこんな画力は持ち合わせていない。
「これだけ、作者が違うはずっちゃ」
ルイが持っていた画用紙を、美沙が卒業証書授与のように恭しく受け取る。
描かれているのは男の子、けれどこの大量のデッサンのモデルとは違う。拙い絵だが、それはわかった。坊ちゃんカットの髪に、おどおどとした目つきで、その少年は切り取られていた。右下の日付は十五年前の八月。きっと最初の絵と同じ日に描かれた。
窓から風が吹き込んで、持っていた紙が浮いた。ひらりと一回転して床に落ちて、裏面に書きとめられていた文字が露わになった。
「はじめの肖像画 by春樹……」
ルイが読み上げて、加奈子がはしゃぐ。
「舞田先生やあ。小さい頃の先生よ!」
そう考えてみると、確かに面影があるように思えてきた。大きな丸い目、白い肌、癖のない真っ直ぐな黒髪……
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