卯月

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給食も終わり、クラスが微睡み始めた頃、カツカツと白いチョークが黒板を引っ掻く音が教室に響く。矢鱈と角ばった文字で、鹿児島県、伊佐市立中央中学校二年一組の新担任は「舞田はじめ」と小さな文字で書いた。  白いシャツに紺のネクタイを締めた舞田は、中年教師が多い中学校の中では珍しい新卒採用の教師だった。それなりに整った顔の若い男が担任に決まり、女子たちは浮き足立っている。かしましい声が教室を埋める。反対に男子は気にくわない顔で、若いなら女が良かったと好き勝手に騒ぐ。  美沙はさしてかっこいいとは思わなかった。むしろ、午前中にあった対面式で、新担任の顔を初めて見たとき、カエルみたいな顔だ、と感じた。ぎょろりと大きな黒目に三白眼。人間というよりは爬虫類っぽい顔つきだと感じた。  そもそも美沙は生身の男に興味がない。筋金入りのオタクである美沙は、平面的な男を愛していた。周りの男子は子供っぽすぎる。くさいし、喧しいし、美沙に対して優しい言葉をかけてくれるどころか、メガネだの、おかっぱだのとからかってくる。     
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