卯月

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「山元、山元美沙…… 欠席ですか?」  頭の中であれこれ値踏みをしているうちにホームルームは進んでいた。名前を呼ばれた生徒が、舞田から書類を受け取っていた。 「美沙!呼ばれちょる!」  加奈子に背中を突かれてようやく意識が現実世界に戻って来た美沙が、慌てて席から立ち上がる。椅子がガタン、と揺れて教室中の視線が美沙に注がれた。 「……考え事もいいですが、話は聞いておいてください」  低く響く声で叱られて、男子から笑われた。  恥ずかしくなって顔を火照らせる。笑った男子を睨むことさえできやしない。自業自得なのはわかりながらも、頭の中で評価の星を一つ減らす。  恥ずかしさを誤魔化すために教卓まで小走りで向かい、舞田の手から、大きな茶封筒を受け取る。去年と同じ、住所や健康情報が書かれた個人情報セットだろう。 「一年間、よろしく。山元さん」  舞田が目尻だけを下げて笑う。近くで見るとまつ毛が長くて、背が高い割に中性的な雰囲気を漂わせている。  ふと、舞田からどこかで嗅いだことのある匂いがした。匂いのありかを脳内で探しながら、何も言わずに一礼だけして席に戻る。     
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