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美沙には少し高すぎる椅子をぎい、と引いた時に、線香だ、と気がついた。隣の家のおばちゃんの家から、四六時中漂ってくるあの匂い。その匂いが舞田からしたのだ。
あの年の男から、線香の匂いがするのも珍しい。
それに、舞田の喋りからは訛りが出てこない。
珍しいことだらけの舞田に、皆は明らかに興味津々だった。
お調子者の野球部の男子がハイっと勢いよく手を挙げる。坊主頭にしたことで目立った頭の形が由来で、皆から「ゼッペキ」と呼ばれている男子だった。
「先生どこから来たんけ?」
生徒の質問に、舞田は明らかに面倒臭そうな顔をしてあしらう。
「東京です。残念だけど、あまりおしゃべりする時間はないので…… 次に教科書を配布します。職員室から持ってくるのを手伝ってくれる人は付いて来てください」
そういうと舞田は扉をあけてさっさと出て行ってしまった。俺が行く、と力に自信のある運動部男子が6人、舞田のあとを追いかけて行った。
残った女子たちは、早速クラスのリーダーポジションを獲得したくぼちゃんこと、久保田綾音を中心に、舞田の品評会を始める。
「東京やってよ、なんかおしゃれな感じせん」
「けどなんでわざわざ東京から鹿児島来るんけ」
「なんかあったんじゃなか?」
「なんかって?」
「わからんけど、実家が伊佐やったとかよぉ」
「それやったら方言使うはずじゃなかけ?標準語やったよぉ」
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