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「そんなんうちに言われても知らんし。彼女か奥さんがここの出身とかなんやない?」
くぼちゃんの取り巻きの一人が放ったその言葉で、水を打ったように静まり返った。皆、舞田に本気で夢を見ていたわけではない。少しの非日常を味わっていただけなのだ。
それなのにも関わらず乙女心は傷つきやすいのか、一様にうつむいて、次の言葉を探しあぐねていた。すかさず、くぼちゃんがフォローに入る。
「指輪してなかった!そういうんじゃなかて!それに、もし彼女とかだったら線香の匂いはせんはずよ」
「そうよねぇ!」
女子の声が重なる。書類に目を通すふりをしながら聞き耳を立てていた美沙は、やっぱり線香の匂いだったか、と再確認した。
「でもなんで線香の匂いするんじゃろか」
「ん?」
女子たちがあれこれと思惑を膨らませているうちに教科書の束を抱えた男子と舞田が戻って来た。舞田の額にはうっすら汗が浮かんでいる。1階の職員室から3階の教室に持って上がるのが相当応えたようで、息が切れている。古い校舎は階段の傾斜も急なのだ。見た目と違わず体力もさしてない舞田は、生徒たちよりも軽い束を手にしていた。
「……はい、それでは列の一番前の人……人数分……取りに来てください……」
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