森の中の少女

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 この女のように森に迷い込む間抜けな魂は日に一、二人やってくる。多いようだが運ばれる魂の総数からすればごく僅かだ。二人目はさほど間隔を置かずに現れた。若い男はクロエを見つけるとにこりと微笑んだ。 「お嬢さん、天国に行くにはどっちに行けばいい?」  魂という存在になっても身なりや身のこなしは生前から引き継がれる。男のそれは年齢にそぐわない柔和な紳士のような振る舞いだった。 「あなたは天国? それとも地獄?」  クロエは男の問いかけを無視し、形式通りの質問をする。男は面食らったようだが「もちろん、天国だよ」と笑顔で答えた。その瞬間、男の光輪が赤く光るのをクロエは見逃さなかった。左の道を指差す。 「この道を真っ直ぐに進みなさい」  弾むような足取りで地獄への道を歩く男の背中をクロエは黙って見送った。詐欺師やペテン師の類いだったのだろうとクロエは推測する。  クロエが案内役を務めるにあたって与えられたのがこの嘘を見抜く能力だった。この能力がなければ務まらないと言っていい程に、人は死んでなお嘘をつく。始めのうちはそんな事実に辟易していたが、今ではそんなものだろうと諦観している。  クロエが足を組み替える。後ろ手を組み、視線は真っ直ぐ前を向いて次の魂を待つ。不吉を告げるような生温い一陣の風が木々と、クロエの髪を揺らした。
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