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一日に三人この森を訪れるのは珍しい。何年振りのことだろうと思い出そうとしたが、すぐに無意味なことに気付いてやめた。クロエにはそれを伝える相手がいない。いつものように迷い込んできた魂との接触を試みる。
姿を見せた品の良い白髪の老人はクロエを見つけるや、何かを思い出そうとするように口に手を当てて眉をひそめた。
「あなたは天国? それとも地獄?」
老人の様子を気にも止めず、クロエは問いかける。怪訝な表情を浮かべたまま老人は「天国です」と答えた。
光輪に変化はなかった。クロエは右の道を指差そうとする。その手を老人が掴んだ。
「クロエ? やっぱりクロエじゃないか!?」
嬉しそうに自分の手を握る老人が誰なのか、クロエは一目見た時から気が付いていた。彼の歓喜の理由がクロエのことを思い出せたからなのか、それとも六十数年振りの再会を懐かしんでのことなのか、彼女には分からない。
「エディ。ずいぶん老けたわね」
クロエは無表情のまま言った。
「あれから色々あってな。会社を大きくするために倒れる程働いて。まあ孫達に囲まれて幸せな最期じゃったし、悪さもせんかったから天国にも行けて上々な人生じゃった。クロエはあれからどうしてたんじゃ?」
「私はなにもないわ」
クロエの刺々しい物言いにエディは表情を曇らせた。
「私は自殺したの。だから天国にも地獄にも行けずにずっとここにいるのよ」
クロエが足を組み替える。風に舞った黒い葉が二人の間を通り抜けた。
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