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序章
蘭丸は人生に絶望し、用心棒になった。
明日をも知れぬ職に就いたのは、死に花を咲かすためだ。
やがて彼は用心棒として人を斬り、苦界の人々からも恐れられるようになった。
だが蘭丸は用心棒稼業もすぐに辞めた。
(俺はどうして生きている?)
蘭丸は昼は眠り、夜になると町をさまよった。
頬はやせこけ、美しい幽鬼のようだった。
または苦行の果てに悟りを開く修験者のようでもあった。
用心棒で稼いだ金があったので、すぐに飢えて死ぬ事はなかった。
だが、己が命を懸け、人の命を断ったお代としては安く思われた。
蘭丸は前後不覚、鬱の状態のまま数か月を過ごした。
その間の事はよく覚えていない。ただ人を斬った瞬間の光景が、何度も何度も脳裏に浮かび上がった。
そして見上げた夜空の月の事が印象的であった。
なぜ自分が月明かりに魅入られるのか、後になって蘭丸は理解できた。
夜の闇に似た人生に、月光という微かな明りに似た希望を探していたのだ。
来る日も来る日も、蘭丸は夜の中をさまよった。月の出ていない日や雨の夜は、絶望感に心が押し潰されそうであった。
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