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ねねのおかげで蘭丸の魂は救われている。
外に出た蘭丸は顔をしかめた。
夜の闇がねっとりと体にまとわりつくようだった。
何者かの視線を感じている。
なるほど、女はいつもこのように男から見られているのか……と蘭丸は妙な悟りまで得た。
それにしても、長屋の外はどうだ。
昼間の喧騒も失せた辺りの様子は、人の住まぬ街のようであった。
「旦那あ…………」
はっとして振り返った蘭丸。
声が耳元で囁かれたように、はっきりと聞こえたのだ。
振り返った蘭丸の視界に声の主はない。
緊張を高めた彼の背に、何者かが貼りついた。
「旦那あ……」
甘えるような声が蘭丸の背から聞こえる。
蘭丸は全身を汗に濡らした。
背に貼りついているのは女のようだが、その気ならば蘭丸は殺されていたはずだ。
「会いたかったあ……」
背に貼りついた女に殺気はないようだ。
蘭丸は呼吸を整え、落ち着いて口を開いた。
「とりあえず、離れてくれないか」
「ああん、もう、旦那のいけずう」
女が蘭丸の背から離れたので、蘭丸は素早く振り返った。
身を離すのも忘れてはいない。刀を抜けなくなるからだ。
「お前は……?」
蘭丸は眉をしかめた。眼前の女に全く見覚えがない。
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