17人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は魔物と戦うのが定めだ。
たとえ死すとも、彼に続く者はいるはずなのだ。
だから死ぬのは怖くない。
怖いのは何もできずに死ぬ事だ。
不意を衝かれて刀を抜く事もできないが、せめて最期まで――
魔物を斬るという決意を秘めた瞳を蘭丸は黒夜叉に注いでいた。
黒夜叉は満足げに下卑た笑いを浮かべた。
「えへへへ、旦那あ冗談でやすよ」
黒夜叉の瞳の紅い輝きは唐突に消え失せた。
下卑てはいるが、友好的な笑みを浮かべて黒夜叉は蘭丸を見つめていた。
なめ回すような視線に蘭丸は生理的な嫌悪を感じた。
「……旦那あ、大奥には魔物が潜んでやすよ」
「何だと?」
「それを斬るのが旦那の使命であり、天命でやすよ」
言った黒夜叉の顔は凛々しく気品にあふれていた。蘭丸の同居人のねねもそうだが、女は突然別人のようになるのが不思議だった。
「もしも、あちきのお手伝いが必要な時は呼んでください。すぐに飛んでいきやす」
「待て、お前は何を言っている?」
「……旦那あ、この黒い世界を断ってください。誰も彼もが苦しみの輪廻に囚われているんでやす、それを少しでもほどいてくれれば、あちきは満足でやすよ」
黒夜叉が言い終える同時に、夜の闇に光が差した。
最初のコメントを投稿しよう!