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あるいは、蘭丸は鬱であったと同時に不能になっていたから、その害が彼を救ったのかもしれぬ。
「刀?」
女は口元だけで笑って蘭丸を見つめていた。妖艶な眼差しの奥に、獲物を見定めるような狡猾さがうかがえた。
「そうだ……」
蘭丸の目は店内を物色していた。家具や農具、武具や薬草の類いも店の棚に並んでいたが、蘭丸が求めているのは――
「――魔を斬る剣が欲しい」
言った蘭丸の眼は輝いていた。殺気を帯びた光だ。
「魔物?」
「そうだ」
女の問いに蘭丸は答えた。彼の言う魔物とは、人間を災厄へと導く存在の事だ。
蘭丸の父は浪人で、母は遊女の類であったという。
二人は善良だった。少なくとも蘭丸にとっては。その二人が苦しみながら死んでいったのは、蘭丸には運命をもてあそぶ存在がいるとしか思えない。
今もそうである。蘭丸は人斬りの用心棒だった。蘭丸を苦界へ導いたのは魔の仕業に違いない。
いや――
世の中を見回せば、何もかもが苦しみと悲しみに満ちている。
人には明るい笑顔が似合う。そう思わせるのは町中の子供達の笑顔がまぶしいからだ。
自分に何ができるのかと思った時、蘭丸は自身の人斬りの業をもって、子供達の未来を守ろうと思ったのだ。
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