序章

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 それはひょっとすれば、過去の自分を子供達に重ねて、自身を救おうという代替行為の現れでしかないかもしれない。  それでも蘭丸は店主の女に告げたのだ。  魔を斬る剣が欲しいと。 「……よろしいわ」  気だるげな笑みを浮かべて女は奥に入っていった。やがて鞘に納まった刀を一本持ってきた。 「これがよろしくてよ」  蘭丸に歩み寄る女。はだけた着物からのぞく白い肌と、女の香りに蘭丸の頭はクラクラしそうになる。 「これは……」  蘭丸は己を制し、受け取った刀を鞘から抜いた。細身の長刀だ。  刃渡りは二尺八寸ほどか。通常の刀が二尺三寸五分だから、四寸ほど長いが、扱いにくさは感じない。  いや、それよりも蘭丸が目を見張ったのは、刀身に刻まれた無数の女の姿だ。全裸の女達が水の中を泳ぐような姿勢で刻まれている。女達は、まるで生きているかのように艶かしい…… 「いくらだ?」  蘭丸は少々興奮していた。普段の彼は鬱であろうと礼節はわきまえている。丁寧な口調が苦界では嫌われていたが、今の彼は女にやたら馴れ馴れしかった。 「お金はいらないわ」  そう言って女は蘭丸に寄り添った。熱い吐息が蘭丸の耳にかかる。理性と自制力が激しく揺さぶられた。 「お代は貴方の体で払っていただければ―― 魔を斬る剣がほしいのでしょう? 安いものじゃない……」     
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