17人が本棚に入れています
本棚に追加
女の誘惑が蘭丸を動揺させる。
古来より道を求めるものは、苦行という代償と共に、大きなものを手に入れてきた。
蘭丸も代償を支払わねばならぬようだ。
蘭丸は身を起こし、服を着た。そして刀の鞘を着流しの帯に差しこんだ。
「憎らしい男…… もう行ってしまうの?」
店主の女は蘭丸の後ろ姿を見つめて、怨み言のようにつぶやいた。寝具の上で上半身を起こした彼女は全裸であった。店の奥の小部屋には淫らな香りが満ちていた。
「遠慮なくいただくぞ」
蘭丸は女に振り返らなかった。彼は女を抱いて、刀の代金を体で支払った。鬱も不能も回復していた。
「色男、憎たらしいわ……」
「ところで、ここは何処なんだ?」
帰ろうとしたところで、蘭丸は帰り道がわからぬ事に気づいた。女は笑った。
「ここは煩悩郷……」
「煩悩郷だと?」
「そう、ここは満たされぬ魂のたどり着く場所……」
告げると共に、女の体が変化していった。
体は鱗に包まれ、女は大蛇へと変身していたのだ。
部屋の天井に届くほどに鎌首を持ち上げ、店主の女だった大蛇は蘭丸を一呑みにせんと襲いかかった。
ふつ
蘭丸の一刀が大蛇を斬った。
打ちこんだ一閃は、大蛇を幹竹割りに斬り裂いていた。
最初のコメントを投稿しよう!