序章

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 女の誘惑が蘭丸を動揺させる。  古来より道を求めるものは、苦行という代償と共に、大きなものを手に入れてきた。  蘭丸も代償を支払わねばならぬようだ。  蘭丸は身を起こし、服を着た。そして刀の鞘を着流しの帯に差しこんだ。 「憎らしい男…… もう行ってしまうの?」  店主の女は蘭丸の後ろ姿を見つめて、怨み言のようにつぶやいた。寝具の上で上半身を起こした彼女は全裸であった。店の奥の小部屋には淫らな香りが満ちていた。 「遠慮なくいただくぞ」  蘭丸は女に振り返らなかった。彼は女を抱いて、刀の代金を体で支払った。鬱も不能も回復していた。 「色男、憎たらしいわ……」 「ところで、ここは何処なんだ?」  帰ろうとしたところで、蘭丸は帰り道がわからぬ事に気づいた。女は笑った。 「ここは煩悩郷……」 「煩悩郷だと?」 「そう、ここは満たされぬ魂のたどり着く場所……」  告げると共に、女の体が変化していった。  体は鱗に包まれ、女は大蛇へと変身していたのだ。  部屋の天井に届くほどに鎌首を持ち上げ、店主の女だった大蛇は蘭丸を一呑みにせんと襲いかかった。  ふつ  蘭丸の一刀が大蛇を斬った。  打ちこんだ一閃は、大蛇を幹竹割りに斬り裂いていた。     
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