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抜く手も見せぬ蘭丸の妙手。これが蘭丸の人斬りの技だ。
死を覚悟して無の境地に踏みこんだ蘭丸の一刀は目にも留まらぬ。
――ほっほっほっほっ……
大蛇の姿が霞んでいく。蘭丸の意識も薄れていく。
――また会いましょうね色男。
女が蘭丸の耳元で囁いたような気がした。
――気づけば、蘭丸は見知った通りの真ん中に突っ立っていた。彼の住む長屋から、そう離れていない。
夢を見ていたのかと思ったが、彼の腰の帯には刀を納めた朱鞘が差し込まれていた。刀を抜いて刃を眺めると、女との情事を――
いや、大蛇を斬った証であるかのように、僅かに血に濡れていた。
「くれない――」
蘭丸はつぶやく。血の赤を現す紅。それが刀の名になった。
この妖刀に命を預け、蘭丸は夜の闇に踏みこむようになった。
人を斬った償いのために、死に場所を求めんと。
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