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蘭丸は額の汗を拭いながら、ぼんやりと考える。
彼は他の人足達と同じように下帯一枚の姿になっていた。
細いながらも引き締まった肉体に汗が浮かんでいる。
鍛えなければ刀を扱うなど、できぬ事だ。
(悪い気はしない……)
用心棒として人を斬るより、償いのために魔物を斬るより――
人足仕事の方が、蘭丸には尊く思われた。
視線の先では、顔見知りの商人が裏門の番人と帳簿のやり取りをしていた。
さて、夕刻である。
筋肉痛に耐えながら、蘭丸は馴染みのうどん屋で夕食だ。
屋体の庄机には、他にねねと商人――
蘭丸に人足仕事を斡旋した小男が腰かけていた。
「――お待ち!」
うどん屋の店主は蘭丸達の前に、小気味良くうどんの器を並べた。
最近は味が上達し、客足も増えているそうだ。
「ふーん、うどんにコシがある…… つゆも悪くねえ…… ねぎは近所の農家から買ったな…… かまぼこは築地の業者からか……」
商人の小男は美食家の通っぽく、うどんを味わっていた。
蘭丸にはわからないが、ここのうどんは美味い。
それだけは確かだ。
隣には信頼するねねもいる。
「オヤジさん…… 腕を上げたわね……!」
ずずう、ずずうと、ねねは豪快にうどんをすすった。
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