木曜日の船

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GOOD MORNING BRANDNEWDAY ITS 5 AM を放送する。ラジオは、最初は英語、次にタガログ語、そしてこの地方語であるセブアノ語で、雑音だらけのニュースを読んでいる。ひび割れ鏡に映る顔を薄汚れたタオルで拭き、五十を超えてからにわかに薄くなり始めた頭髪に櫛をあてる後ろに、寝くされ顔の老婆がのっそり映る。老婆は泣きそうな顔で、「サー・浜田、パンもジャムもミルクもコーヒーも、お米も、干し魚も、家には何もない、少しお金を下さい」と言う。 いつもの朝だ。 老婆の泣き顔にはいつものように知らんぷりして、生ぬるい湯ざましをごくごく飲んで小屋を出ると、まだ暗い海から微風が流れてきた。黒い犬が、しっぽを振りながら寄ってきた。 おお、クロ、おはようさん。 洋二が胸の内でそう呼んでいる、誰のものでもないし何の種類でもない小柄な黒い犬は、いつのころからか、朝になるとひょっこり現れて、椰子の続く海沿いの小道を、とことこついて来る。 砂浜をざくざく踏みしめてしばらく歩く。どこかの家の竹籠の中で、ニワトリがここここと鳴いている。 空を覆うようなガジュマルの大木のある曲がり角で、オランダ人の超大柄デュークに会った。   「よう、ヨージ、今日も暑くなりそうだな。こんな朝は、コルテス金貨の一枚も見つかりそうな気がするよな」     
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