断片一 管鰻

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 広げられた手ぬぐいの上に、藍、赤、白と孕み屋を呼ぶための言卵を順番に取り出して置いていく。  必要な言卵を並べ終わると今度は水筒の蓋を開け、中から一匹の管鰻をつまみ出した。  管鰻は冬になると冬眠をする。その習性を利用して水筒の中に氷を入れて管鰻を冬眠させた状態で持ち運んでいる。  シゲは取り出した管鰻の尾の近くにある産卵口の中に、手ぬぐいの上に並べた言卵を一粒ずつ順番に入れていく。  すべての言卵を入れ終わるとシゲは管鰻の産卵口からおなかに向けてゆっくりとしごいていく。産卵口から飛びださないように腹の中の言卵を頭の方へと送るのだ。それが終わると手ぬぐいの上に管鰻を置き、少し待つ。産卵口から言卵が飛び出してこないかどうかを確認する。  そこまで済むとシゲは自分の手を口元にあて、息を吐きかけて手を暖めた。そして再び管鰻のエラの後ろの部分つまみながら腹の部分を握り、ゆっくりと尾に向かって手を滑らせ管鰻を暖め始める。  管鰻は鰓呼吸だけでなく肺呼吸もする。だから水の中から取り出してもしばらくの間は生きていくことができるのだが、陸上の生き物ではないので徐々に弱っていってしまう。手早く済ませなければいけないが慌ててもいけない。 「起きてくれよ」 とシゲはつぶやく。     
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