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断片一 管鰻
「孕み屋を呼べ」
オリツの膨らんだ腹を見てタツゾウはシゲにそう言った。
ここから川までの距離を頭の中で思い出し、そんなに離れていなくて助かったとシゲは思った。この道を少し戻れば川に繋がる小道がある。管鰻使いにとって川は重要である。常にどの方向に川が流れているか、どの道を通れば川までたどり着くことができるかを把握しておかなければいけない。川まで小走りで駆けながら言卵の組み合わせを頭の中で組み立てていく。
川辺まで降りていくと、シゲは背負っていた水筒をおろし、その脇にある入れ物の中から言卵の入った小袋を取り出した。懐から手ぬぐいを取り出し地面の上に広げる。
体を屈めて手ぬぐいの表面をふっと吹いて埃を吹き飛ばす。そしてその表面を手の甲でさらりとなでて確認をする。さっきまで懐に入っていたのだからごみや埃などついてはいないはずなのだが、シゲは始める前にこの行為をする。シゲにとってこの行為は管鰻を放つための所作といってもいいのかもしれなかった。これをすると落ち着くのだ。
心が透明になっていく。
――よし、と孕み屋を呼ぶための言卵を選び始めた。
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