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断片五 孕み
「胎樹はあったか」
戻ってきたシゲの報告の言葉も待たずにタツゾウはシゲに向かって言った。
――胎樹?
そこまでは気にしていなかったシゲだが、川辺までの道のりを頭の中で思い出す。
胎樹は流れる水辺にしか生えない。湖の近辺であれば少し離れた山の中でも生えていることもあるが、その場合も川とつながった湖だけである。
管鰻を放ち、くだに入ったところまで確認したあとでシゲは川上の岸辺に目をやった。そのときに胎樹が生えていたのを記憶の底から拾い出した。
「ありました」
「そうか、だったら今日はそこで野宿することにする」とタツゾウが言う。
草むらに寝転んでいたチョウジがよっこらしょと起き上がり、背伸びをする。
シゲはオリツの容態を伺った。
管鰻を放ちに行くまでオリツの顔は真っ青だったのだが、いまはいくらか頬に赤らみが戻っていた。
「オリツさん、具合はどうですか」
オリツはシゲににこりと笑みを浮かべ「病気じゃないんだから大丈夫だよ、ありがとうシゲ」と答える。
「ちょっと立ち上がるのに肩をかしとくれ」
シゲはオリツに近づき、膝を落とす。
「そんなにかがまなくってもいいわよ、シゲは小さいんだから」
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