断片三 胎樹

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断片三 胎樹

タツゾウがシゲに孕み屋を呼べと指示した瞬間、チョウジの頭の中では金勘定が始まった。タツゾウの命令を除けば金でしか動かないチョウジである。 管鰻を一匹使ってしまうのは仕方がない。管鰻一匹の値段などたかが知れている。問題は管鰻屋のオヤジに支払う手数料だ。いつもは明朗会計などと善良ぶったことを言っているが実際は言卵の内容に応じて手数料を変えている。ようするに時価だ。いやその時の気分だ、あの鈍物め。 孕み屋に関わる内容となるとあのオヤジのことだからこっちの足元を見てくるに決まっている。もちろんそれだけじゃない、孕み屋に支払う金も並ではない。頭の中で儲けの金額はどんどんと目減りしていった。 と、そこまで計算したところで腹が立ってきたチョウジは思わず「だから拵えなんか連れて行くなと言ったんだ」と言ってしまう。 しかし、すぐに頭にくるチョウジだが熱しやすく冷めやすい。一度口に出してしまうと怒りもどこかに飛んでしまう。 「今回の仕事にはオリツが必要だって言っただろう」 「そうだった、すまねえ、しかし……わからねえのはなんで拵えちまったかってことだ。出かける前に念を押したじゃねえか、オリツによ」     
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