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「商店街で美杜町の歴史的なスポットをもっとPRしていこう、ということになってね。この桜の木を紹介する案内看板を立てているところだよ。まぁ、本来ならもっと早くにやるべきなんだろうけど、昨年度の予算がなくなってしまって、今年度に入ってからやっているというわけ」
「ふ~ん、そうだったんだぁ。どれどれ?」
早速立てたばかりの看板を読んでみると、そこには次のようなことが書かれていた。
『この桜は今から160年ほど前の江戸時代後期、仙台藩の武士であった男性が若くして亡くなった婚約者を偲び、弔いのためにその邸宅にあった桜の木を移植させたものです。樹齢はおよそ180年で、亡くなった女性の名前から「志津桜」と呼ばれています』
あ、あれ……? なんだろう? 今、悲恋のロマンティックさを感じる前にデジャヴみたいな感覚があったんだけど……。志津って名前もなんだか聞き覚えがあるような、無いような。
「へぇ……。こんな謂れがある桜だとは知らなかったけど、一番身近にある木だから、毎年この時期になると今年もきれいに咲いたなぁ、って見てた」
そう言って桜の木を見上げる陽ちゃんの横顔は、ほんのちょっとだけ寂しそうにも見える。桜って見事に咲き誇って、でも必ず散ってしまうものだから、その儚さがなんとも美しい。それだけに見ているとちょっと切ない気持ちにもなるんだよね……。
「じゃあ来年もみんなで観に来ようよ」
仙台には桜の名所がたくさんあるけれど、この桜だって立派なものだ。しかも一人の男性の真摯な想いがこめられているのだから一層ロマンティック!
「そうだな。そうしよう」
にっこりと頷いた陽ちゃんの肩にひらひらと花びらが舞い落ちる。私やお父さん、佐々木さん、それに朝陽と晴陽にも。まるで桜が「ありがとう」って喜んでいるように見えた。
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