3.春はあげもの~パラドックス・コロッケ~

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「うまそうに食べるッスねぇ」 「本当だな。作り手冥利に尽きるよ」  ありがとう、と続ける陽ちゃんに丸ちゃんは「とんでもない」と激しく頭を振った。 「お礼を言うのは私のほうです。今夜ここへ来るか少し迷ったんですけど、やっぱり食べに来て良かった。じゃなかったら、またグルグル悩んだまま抜け出せなかったと思います」  うんうん。ストレスが要因となって衝動的にミクリヤへやって来た丸ちゃんだったけど、結局はそれが問題解決のキッカケになったわけだし本当に良かったよ。 「星ちゃんとまどかちゃんに心を解きほぐしてもらえたし、二十一年ぶりに食べたミクリヤのハンバーグは、思い出の中にあるのとまったく同じで、本当に幸せな気持ちになりました。おいしいだけじゃなく、お腹の底からパワーがみなぎってくるっていうか……。なんだかフラれたことや相手のことなんか、どうでも良くなってきちゃいました」  テヘッと笑う丸ちゃんに私だけでなく、みんながホッと安堵したのがわかった。もしかしたら、陽ちゃんがあの特別なおまじないをかけたのかもしれない。かつての百瀬さんや私にしてくれたように、元気のない丸ちゃんがこのハンバーグを食べて元気になれるように。 「その意気ッス。ちょっと聞こえてきたけど、見かけだけで人を判断するヤツは、本人も中身がない薄っぺらい男に決まってるッス。程度の低いヤツだと判ってむしろ良かったじゃないッスか?」  あら、百瀬さん(たまには)いいこと言う~! 素直に感動しちゃったけど、次の瞬間には思わず苦笑い。だって百瀬さんはハリウッド女優みたいなイリーナが恋人なんだもの。つまりその、なんていうか……。 「ねぇ、百瀬さん。素晴らしい意見だけど、あまり説得力はないね」  私と同じことを思ったのだろう。星ちゃんがおかしそうにクスクス笑っている。
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