3.春はあげもの~パラドックス・コロッケ~

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「ジャガイモも油で揚げなければ、思ったほどカロリーは高くならないッスよ。茹でたり、ふかしたジャガイモなら、同じ炭水化物である白米と比べて約半分のカロリーだし、サトイモを使えばもっと低くなるッス。肉も豚や牛ひき肉じゃなく、鶏ひき肉にするとか、赤身の薄切りにするとか。いろいろ方法はあるッスよ」  百瀬さんの補足に丸ちゃんは真剣な表情で聞き入っている。私もおイモ類は無条件で高カロリーだと思ってたなぁ。ちょっとした工夫で好きな物を我慢せずに食べられるなら試さない手はないよね。まさに星ちゃんが言っていた『食べ方を変える』ってやつだ。 「本当ですね。今までそういう手間を面倒くさがっていたし、時間がないのを言い訳にして、お手軽にお腹を満たすことしか考えてなかったなぁ、と思います」  そう反省した丸ちゃんは、しみじみとした表情で私たちを見渡すと、急に思い立ったようにスツールから立ち上がった。 「あの……みなさん! 今日は本当にありがとうございました。閉店間際に突然押しかけて来たのに、これほど親身になって心配してくださって……」  深々と頭を下げた丸ちゃんは再びこみ上げてくるものがあったようで、次の一声を詰まらせながらも、ニッコリ微笑んで見せた。 「私、誰かに必要とされたかったというか、存在を認めてもらいたかったんですね。誰にも愛されない、必要とされないってずっと思っていたけど、それは他の誰でもない、自分に対して私自身が一番そう思っていたんだ、っていうことに気が付きました」  丸ちゃん……。 「……うん。それがわかったんだから大丈夫だよ。言葉も食べ物も、丸ちゃんは丸ちゃんが口にしたもので出来ているってことを忘れなければ」  そう言って星ちゃんがよしよし、と丸ちゃんの頭を撫でる。
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