3.春はあげもの~パラドックス・コロッケ~

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「そしたら、水曜日のお昼に星ちゃんから『今夜、しゃぶしゃぶでも食べに行かない?』っていうLINEが入ってたの。本当に誘ってくれるんだぁ、って感動したよ~。お店の場所のリンクも貼ってあって、すごく良さそうなお店だった」  うんうん。星ちゃんは心から思ったことしか口にしないというか、社交辞令やおべっかは言えない人だからね。それでそれで? 「星ちゃんからは七時に予約したとだけ返信があったから、職場から直接お店へ向かうつもりで、いつもより仕事を早く終わらせたの。そしたら、若い子たちと更衣室でかち合っちゃってさ。彼女たちは仕事が残っていようといまいと毎日早く帰るからね。それで『一人ぼっちなのに早く帰ってどうするの?』とか、『何も予定がないんだから残業していけばいいのに』とかコソコソ悪口言ってたけど、内心『言ってろ』と思いながら会社を出たわけ」 「おおっ! いいぞ、丸ちゃん!」  気持ちの方も負けてないぜ! と両手でサムズアップすると、応えるようにニンマリ笑った丸ちゃんは、その後の展開の情景を思い出したのか、急に頬を桜色に染めてウットリと感慨深げなため息をついた。 「それでね、従業員の出入り口から外へ出たら……真ん前の駐車場に星ちゃんがいたの! ステキな星ちゃんがステキな車に寄り掛かって、ステキな笑顔で私を待っててくれたんだよ! まさか迎えに来てくれるなんて夢にも思わなかったから、すっごくビックリしちゃったけど……」  本人も驚いただろうけど、それ以上に驚いたのはその場に居合わせた例の後輩たち。丸ちゃんによれば、そんじょそこらにいるのとは一線を画しまくる星ちゃんが迎えに来ただけでなく、「うちの丸ちゃんがお世話になっています」とにこやかに挨拶し、颯爽かつ華麗にエスコートして行ったので、驚愕のあまりポッカ~ンと口を開いたままフリーズしていたんだって。
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