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「ちょっと待ってください。Aランチがイワシのフライ・梅タルタルソース添え、Bランチがポークソテーのハニーマスタードソースですね? はい、質問。梅タルタルってどんなのですか?」
メモ帳とペンを出し、小さく手を挙げて質問する。まさに『百瀬ニモ負ケズ、克子ニモ負ケズ』状態だ。
百瀬さんは『そんなこともわからんのか』というように肩をすくめたけど、結局いつも丁寧に教えてくれる。この口の悪さが彼特有の親愛表現なんだと思う。
「そのまんま、梅が入ったタルタルですけどね。通常はピクルスを使いますけど、今日はカリカリ梅を刻んで混ぜ込んでいるんス。脂がのったイワシもサッパリ食べられるので美味いッスよ」
へぇ、なるほど。それならピクルスよりも歯ごたえがあるし面白そう。ハニーマスタードソの方は以前食べたことがあるけど、鼻に抜けるほのかな辛さと甘さがお肉の旨味と脂に合っていておいしいかったなぁ……。う~ん、どっちも食べたい!
そう言うと、百瀬さんはいつものように「ハッ」と冷たく笑った。
「桜木さんは本当にアホですねぇ。今日はゴールデンウィーク初日ですよ? ランチが残るわけないじゃないッスか」
あ! そ、そうか……。さっき自分でも確認したばかりなのにコロッと忘れてた……ガックリ。
でもまぁ、いいや。ランチのメニューは食べられなくても、百瀬さんが作ってくれるまかないは確実に食べられるわけだもんね。
「百瀬さん、今日のま……」
「教えません」
被せ気味にキッパリと言い切って、百瀬さんが厨房へと戻っていく。ううっ……まだ『今日のま』までしか言ってないのに鋭すぎるよ……。
とにかく今日から金曜日までは混み合うこと必至。それを思うと今から気が遠くなりそうだけれど、ディナー営業は孝輔もヘルプに来てくれることになっているし、忙しい時ほど丁寧な接客を心掛けて、一日一日を着実にこなしていこう。
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