4.ウエディングケーキと幸せのドラジェ

15/44
前へ
/644ページ
次へ
「壁に孝輔、障子に孝輔ってなモンでね。俺の美杜町情報ネットワークはマジですごいのよ。たとえば、この間の日曜日の夜、十一時近くにまどかちゃんがコンビニでサニー・ポッチャリーどらやきを八個も買い占めて行ったとかさ」 「ええーっ!? なんで知ってるの!?」  買ったよ、確かに買った……。サニーのあずきホイップ味、ミルクのいちごホイップ味、シュリのカフェラテ味、キンタ校長の抹茶クリーム味をそれぞれ二個ずつ。 だって、いつも売り切れで買えなかったし、期間限定だし、もう二度とお目にかかれないかもしれないと思うとつい……。  言葉を失う私にフッフッフ……と不敵に笑った孝輔は、良く冷えたグラスに生ビールを注ぎ、おつまみのナッツと共にイリーナへサーブした。 「というのは半分冗談で半分はホントかな。ほら、美杜町の女性たちは俺を見ると声を掛けずにはいられないみたいでさ。聞いてもいないことをホイホイ教えてくれるんだよね。もちろん、マズいことは吹聴したりしないよ? ブーケのことは英理子姉さん本人から聞いたの。アレンジメント教室であすかちゃんのセンスの良さを見抜いて依頼したと言ってたよ」  ふむふむ。『孝輔を見ると声を掛けずにはいられない』というのは首を傾げるけど、成田さんのセンスが良いっていうのは大いに頷ける。お見舞いのお花を頼んだ時も大した情報は伝えていないのに、孝輔にピッタリな感じのすごくステキなアレンジメントを作ってくれたもの。 「なるほど、そういうことでしたか。下町ってステキですね。こんなふうに思わぬところで人と人が繋がってて。私も早くこの町に馴染んで『美杜町っ子』になりたいです!」  そう熱く語ったイリーナに、会計で席を立った常連のおばさんが「イリーナちゃん、おばんでがす~」と挨拶する。イリーナも「あら、おばんでがす~。いっつもどうもね~」と仙台弁で応答。う、うん、もう十分に馴染んでいると思うよ……。
/644ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1776人が本棚に入れています
本棚に追加