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そんなことを考えていると、五番テーブルに魚料理をサーブしてきた孝輔が、ふと何かを思い出した様子で手を打った。
「そういえば、会場になるレアルパークホテルって、俺が専門学校で習った講師の先生がいるところなのよ。シェフ・パティシエっていう製菓部門のトップをしてて、ウエディングケーキの研修で行ったことあるんだ。他にも先輩や同級生でも何人か働いている人がいるよ」
「へぇ、そうだったんだ? それは奇遇だね」
「といっても、仙台でパティシエ専業っていうと結構狭い世界なんじゃないかな? 学校には俺みたいに実家がケーキ屋って人や製菓会社の跡継ぎなんかがいたけど、最初から就職先が決まっている人はほんのひと握りだったし……。その点、結婚式場やホテルは製菓専門の部署があるから、パティシエが集まるのも当然なのかもね」
そっか。陽ちゃんたちのような料理人だと料理の種類や店もたくさんあるけれど、お菓子だけってなると確かに働くところは限られてしまうのかも。中には思い描いていた夢を変更せざるを得ない人もいたんだろうなぁ……。厳しい世界だ。
ところで、レアルパークホテルといえば、仙台でも指折りのラグジュアリーホテル。ウエディングケーキは英理姉が作るけど、招待客に配るプチギフトはホテル特製のドラジェと聞いている。
ドラジェとは、簡単にいうとアーモンドを砂糖で包んだ糖菓のこと。ヨーロッパでは昔から結婚、出産、洗礼などの祝い事に欠かせないお菓子らしい。幸福の象徴とされているアーモンドの木がたくさんの実をつけることから、『多産』や『繁栄』を意味する縁起の良い食べ物とされているんだそう。
イタリアでは『幸福』『健康』『富』『子孫繁栄』『長寿』の五つの願いを込めて、ドラジェを五粒まとめて配る習慣があるし、フランスでは、女の子が生まれるとピンクのドラジェを、男の子が生まれると青いドラジェを贈るんだって。
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