4.ウエディングケーキと幸せのドラジェ

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 ドラジェのルーツは紀元前177年、遠い古代ローマの時代までさかのぼる。ファビウス家という貴族に仕えていた菓子職人のジュリアス・ドラジェという人が、アーモンドを蜂蜜の壺に落とした時に思いつき、それ以来ファビウス家では、一族の結婚や出産の時に市民にこのお菓子を配ったんだそう。なんて気前のいいご領主さまなんだ……!  ルーツはもうひとつあって、こちらは1220年のフランス、東北のヴェルダンという町。薬剤師によってアーモンドを蜂蜜と砂糖で包み込むという保存方法が考案され、これは現在のドラジェとほとんど同じようなものだったみたい。 ちなみに、苦いお薬を飲みやすくした糖衣の錠剤があるけれど、あれもドラジェというんだって。つまり糖衣掛けすること=ドラジェなのかな?  なにはともあれ、成田さんも気持ちを切り換えて自信を取り戻せたようだし、お式の準備はすべて滞りなく進んでいる。英理姉の体調もいい。むっちゃんもすこぶる元気。あとは来週の土曜日まで指折り数えながら楽しみに待つだけだ。  2016年における桜木家最大のイベント、一体どんなお式になるんだろう? *     *     *  それからあっという間に一週間が過ぎ、いよいよ五月十四日の土曜日、大安吉日の朝がやってきた。  むっちゃんが家にいないせいかイマイチ実感がわかずにいたけれど、お母さんが極道の妻のようにピシッと決まった和風のヘアスタイルに黒留袖姿で美容室から帰ってきた時、『ああ、本当に結婚式なんだ』と強く認識した。  今日は忙しい一日になるだろうからと、いつもよりしっかり朝ごはんを食べたお父さんは、リビングのコート掛けに下げたモーニングをしみじみと眺めながら、ゆっくりとお茶をすすっている。その表情はとても優しくて穏やか。きっと、むっちゃんが生まれてから今日までのことを思い出しているんじゃないかな。
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