4.ウエディングケーキと幸せのドラジェ

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 ドラマや映画だと嫁ぐ娘さんが両親に感動の挨拶をするシーンをよく見るけれど、むっちゃんは昨日も遅くまで仕事に追われていて、そんな暇はなかったみたい。まぁ、むっちゃんが嫁ぐわけじゃないから、そういう感傷的なものはないのかもしれないけど。マンションへ帰る時も「じゃあ明日よろしく~」って普通に帰って行ったらしいし。でもちょっとは照れもあったんじゃないかな。  さて、今日は分単位のスケジュールだから遅刻は厳禁。八時少し前に家を出て、お父さんの運転でレアルパークホテルへ向かった。  後部座席の窓を少し開けると、街の音と共に爽やかな五月の風が頬を撫でる。今朝は本当にいい天気で、お父さんによれば「朝焼けがとってもきれいだった」そう。挙式はホテルの庭で執り行うことになっているから、その点でもまずはひと安心。天候さえもむっちゃんと英理姉を祝福してくれているみたいで幸先がいい。  仙台市の中心街を抜けて北へ走り、三十分ほどすると緑の多い閑静な郊外に威風堂々としたレアルパークホテルが見えてくる。近くにあるアウトレットモールには何度か来たことがあったけど、こちらのホテルへ足を踏み入れるのは初めて。私もお母さんもハンドルを握るお父さんも緊張してきてしまい、正面玄関にいるドアマンさんの方が悠然と落ち着いている。こういうところが庶民の悲しい性だ。  車を預けてロビーへ入ると、すぐにスタッフの女性が笑顔で迎えに来てくれる。控室まで案内してもらう道すがら、むっちゃんと英理姉はすでに来ていると教えてくれた。  良く手入れされた美しい庭を左手に見ながら奥へ進むと、途中の渡り廊下から建物の内装や造りが南欧風になる。まるで外国のお城に迷い込んだみたい……。にわかにワクワクしてきた!
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