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「お前って心底幸せなヤツだよな……」
傍らの孝喜さんも真顔で呆れていたけれど、孝輔はそれすらも良い方にとらえ、「うん!」と満面の笑みで力強く頷く。う~ん、私も欲しいなぁ。この自動ポジティブ変換機能……。
「そんなことより、二人とも少し来るの早くない? 幸喜さんはアッシャーのメンバーだからわかるけど、それでも十時半からの最終リハーサルまで集まればいいんですよね?」
そう問うと、孝輔が即座に「そんなことって!」とコケる。冷静な眼差しで弟を一瞥した孝喜さんは、何事もなかったように私へ向き直った。
「確かにそうなんだけど、英理子さんはここでウエディングケーキを仕上げるんだろ? アリョーシャが全部教えたっていう事実を考えたら……なぜだろう? 昨夜、寝るときになって急に強い不安が過ったんだ……。英理子さんに恥をかかせるわけにはいかないから、最終的なチェックは俺がしようと思って」
思わず吹き出しそうになった私だったけれど、幸喜さんは至って真面目な表情。孝輔が「ちょーちょーちょー! なんでだよ!」と不満そうな声を上げた。
「セリョーシャは本当に一言多いのよね。何か手伝えることがあれば、と思って早く来たんでしょ?」
そうか、そうだったのね。でも二人が来てくれたと知ったら英理姉も心強いはず。早速控室へ行ってみるというので、私もお供することにした。
スタッフさんに教えてもらったように突き当りを左へ行くと、案内が出ている控室に英理姉の姿はなく、その隣の開け放たれたドアから特徴的なハキハキとした声が聞こえてくる。遠慮がちに覗いてみると、そこは六畳くらいの小部屋で、むっちゃんと英理姉、それに成田さんの姿があった。そして中央に置かれた長テーブルには、今まさにデコレーション中のウエディングケーキが鎮座している。
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