4.ウエディングケーキと幸せのドラジェ

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声を掛けると真剣な表情から一転、英理姉の幸せいっぱいの眩しい笑顔が花開く。むっちゃんはもうすでに緊張気味らしく、どこかぎこちない笑みだ。成田さんはデコレーションに使うお花のために早く来てくれたのだろう。  花婿、花嫁としての心境なども聞いてみたいところだけれど、まずはケーキを完成させなければならない。一番大きい一段目のデコレーションは済んでいて、今は二段目が半分くらい終わったところ。やはり家とは勝手が違うからか、生クリームがなかなかちょうど良いテクスチャーにならなかったらしく、英理姉のタイムスケジュール的には少し押しているらしい。 「心配めさるな、英理子姉さん! そんなこともあろうかと早めに来た東雲ブラザーズなのね!」  そう言うや否や、芝居がかった動きでバサッ! とジャケットを脱ぎ捨てる孝輔。その後ろで、どこまでも冷静な孝喜さんが「礼服なんだから丁寧に扱えよな」と床から拾い上げる。まさに静と動、プラスとマイナス。うまい具合に補い合ってるなぁ……。  孝喜さんもジャケットを脱ぐと、二人はシャツの袖をまくり、持参したパレットナイフなど製菓用の道具を素早くテーブルの上に配置。全体のバランスなどを確かめながら、デコレーションと修正を開始する。その動きはまったく迷いがなく、素早いうえにとっても滑らか。さすがプロだなぁ、カッコイイ! ……と思ったけれど、今は大切な作業中だもんね。孝輔の集中力を削ぐといけないから黙っておこう。  傍らから切なげな溜め息が聞こえたので振り向くと、成田さんがウットリとした表情で孝輔だけを見つめていた。可愛らしい横顔はほんのりと赤く染まり、『孝輔さんステキ……!』という心の声が聞こえてくるようだ。  ホントにねぇ。孝輔も口を開かなければ……あ、いやいや。ごめんなさい。なんでもないです。
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