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声を掛けると二次会へは出ずに帰るつもりだったみたい。孝輔と一緒に二次会へ行こうと誘ったけれど、成田さんは「少し疲れてしまったので失礼します」と済まなそうな笑顔を見せた。
確かにその様子はあるものの、どちらかといえば胸がいっぱいという感じかな? どこかウットリとして、夢見心地のような表情にも見える。孝輔と二人だけの共同作業は、控えめで恥ずかしがりやな成田さんにとって、ドキドキし過ぎる出来事だったのかも。
残念だけれど、今日のアクシデントを考えると無理強いは出来ない。改めて今日のお礼を伝えてお見送りすると、傍らの孝輔が成田さんの小さな背中を目で追っていることに気が付いた。
ちょっ……! なんだい、孝輔! 普段は考えるよりも早く動いちゃうくせに!
「おい、コラ」
肘で小突き、「えっ?」と私を見下ろした彼に無言で『行け!』と指し示す。
「あ、はい!」
ストライドが大きな孝輔だから、小柄な成田さんにはすぐに追いつくことができる。
たくさんの人で賑わうロビーで可愛らしいボブヘアが振り返り、掛けられた言葉にパッと表情が華やぐ。
そんな彼女を見下ろす孝輔の横顔は、他の人に対するのとはちょっぴり違う、素直で穏やかな優しさがにじんでいた。
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