5.聖なるジェノベーゼ

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 怒涛のゴールデンウィークと、むっちゃんと英理姉の結婚式。今年最大のイベントを終えた五月の下旬は、その反動かのんびりとした時間が過ぎていた。  夏至に向けてどんどん陽は長くなり、暖かさの中にもちょっと湿度のある暑さを感じる今日この頃。移ろう季節の中にいるんだなぁ、と実感する。特に今日は日中の最高気温が25℃を超えるほど暑かったから、文字どおり『夏日』。私の記憶が確かなら今年初の夏日だったんじゃないかな。こういう時は体調を崩しやすいから気を付けなくちゃ。  そんなことを考えながら帰宅すると、私の部屋はモヤ~ッとした日中の熱がこもったまま。窓を閉めていたんだから当然といえば当然だけれど、以前なら隣室のむっちゃんが気を利かせて換気してくれたりしていたんだよね……。こういうちょっとした時に「ああ、むっちゃんはもう家にいないんだなぁ」と実感する。ちょっぴり寂しい気持ちになってしまうけど、これも幸せがもたらした変化なんだから、徐々に受け入れていかなくちゃ。  着替えて窓を開けると、商店街を行く車の音や呑兵衛のおじさんたちの楽しそうな声と共に心地よい風が吹いてきて私の頬を撫でる。夜空には下弦へと欠けはじめた月がハラショーのピロシキみたいな形で浮かんでいた。  さて、今日は月曜日。週末を乗り切って明日は定休日という私にとっては、一般の人の金曜日に当たる。明日の朝、目覚ましをかけずにゆっくり眠れるというだけで嬉しいし、何をして過ごすか考えるのもワクワク。暑くなってきたし、少し早いけど衣更えをしようかな? などとボンヤリ考えていると、不意にバッグの中のスマホが鳴った。確認すると陽ちゃんからの着信だ。 「はーい、もしもし?」  数十分前までお店で一緒だったのにどうしたんだろう? と電話に出ると、一拍の間を置いて陽ちゃんの優しい声が聞こえてきた。
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